カテゴリー: 日本映画

  • そうは言っても映画『万事快調 オールグリーンズ』

    そうは言っても映画『万事快調 オールグリーンズ』

    (C)2026「万事快調」製作委員会

    そうは言っても映画『万事快調 オールグリーンズ』

    (前半は)素晴らしい映画。なにが素晴らしいか語ろうとするだけでもこちらがゾクゾクするくらい。

    まじ、映画『愚か者の身分』を超えたのでは!と一時思ったくらい。

    出だしのカットからはじまって、長い長いイントロの末に女子高生三人が偶然ひき逃げを目撃する「イバラキのド田舎のひろい十字路」に至るまでは、まったく新しい映画が誕生するのだといった目撃者のうれしさがあった。

    三人とも、大なり小なり家庭に問題を抱えていて、その機能不全をそれぞれの方法で生き抜いて来ている。ぐっと引き寄せられる構図のカットとテンポのよい編集で進むこの映画はいったい何だ(新鮮な感じ)。

    撮影が凄い。カメラマンは齊藤領。略歴は、カリフォルニア州立大学フラートン校卒業(ハリウッドに特化の学校?)、東京芸大大学院卒業。「スチールカメラマンからキャリアをスタート、美しい瞬間を切り抜くことを得意とする」とある。(学歴で計りたくはないが、ガッツはある)なるほど!

    前半はどのカットもキマッテる!文句のつけようがない。それだけでも奇跡かもしれない(ちょっと言い過ぎかな?)。

    (『愚か者の身分』の場合だと、色使いや躍動感のある絵作りで印象に残る作品となった。)

    主演は南沙良で、彼女の内向きの役作り(?素)がいい。ラッパーとしての初々しさもいい(当方ラップが好きになった)。彼女の良さもカメラは引き出していた。

    三人組のあと二人は、最近よく見かける出口夏希と、私は初めて見た吉田美月喜だが、吉田が味わい深くてよかった。

    話は、女の子を食い物にしようとするワルのラッパー先輩が登場するのだが、そいつをやっつけた主人公が、偶然手に入れた大麻の種を使って、高校の屋上で大麻を栽培して、お金を作ろうとする流れに、映画の本筋は移行していく。

    このあたりは、大麻という微妙な題材を扱いながら、かなりふっきれた感じで展開している。ただ映画のテンポからいうと、ワルの先輩が登場する前後などから、時折まどろっこしい部分が出現し始める。

    それでも、主人公に心をよせるラッパー男子が、大麻でラリッて大けがをして入院しているのを見舞うシーンなど、省略と切り替えの妙など、ドライな感性の良さがそこここに見て取れる。

    まったくの推測だが、全体を通して、カメラマンの意図が強力な援軍として機能していたのではないだろうか。前半のイントロの部分では、主人公たち3人の紹介をするという映画のベクトルは明瞭だ。そんな時にカメラの力が発揮されていた。

    後半にむけて、そのベクトルに揺らぎが出てきて、カメラの腰がいまいち座らなかった、という印象だった。(ちょっと残念)

    もちろん監督・脚本の児山隆も優れた仕事をしたのは間違いない。最後の高校の卒業式でのオチも、そのドタバタ加減にはやや目をつぶるとして、映画全体を通してみれば、型破りな高校生の物語としては、世界に通用する映画としての価値を備えているような気がした。そのことは、カメラマンがアメリカ帰りということを知る前に感じていたことだった。

    ひょっとしたらだが、これがラップなのかもしれない。

  • スケッチブック映画『架空の犬と嘘をつく猫』

    スケッチブック映画『架空の犬と嘘をつく猫』

    高杉真宙
    (C)2025 映画「架空の犬と嘘をつく猫」製作委員会

    スケッチブック映画『架空の犬と嘘をつく猫』

    ごめん、ちょっと時間がたってしまったので、やや記憶が薄れているなかで書く。でも書かなくてはとの思いが強いので力を振り絞ってみる。

    年代ものになっていて、少年時代から、何回かの区切りを経て家族友達それぞれが成長していく様が描かれている。

    祖父の死や、祖母の死などが(あまり意味は感じられないが)次のシーンへの展開のきっかけになっていて、思い切りがよく小気味よい切り替えなので見ている側に期待を抱かせる。

    各シーンはその中だけみれば、丁寧に描かれている。だが、シーンを重ねていって、到達点が明確になっていくか、と言えばそうではない。だから、スケッチブック映画と形容した。

    不全家族のなかで成長していく何人かの子供たちが描かれている。重い問題なので、ないがしろにしない、という監督の思いはつたわる。だから、こどもたちがその時に直面している問題を丁寧に描いている。そういうシーンが積み重なっていく。

    主演らしいのは高杉真宙だ。もっと若いときから有望な俳優で、悩みの中で目覚めたり、といった演技にはピッタリの俳優だ。彼のほかにも子役もふくめて有能な俳優、また脇役陣をあつめて、出演者だけみれば、完璧な布陣だ。

    なにかが、あまい。それを象徴するのが、祖母の葬式のあと、残された家族がバスのなかで話す長いシーンだ。よく分からない話をワンショットでとっている。どんな台本か分からないが、俳優たちが演技に困った感じが伝わる。

    祖母は自由に生きろ、みたいなことを言っていたので、多分そのあたりがこの映画のテーマなのだろう。

    繰り返すが、一枚のスケッチにあたる部分は過不足なく描かれて悪くない。そういう作りの映画もありうる。つまり、全体のまとまりはないが(というかあえて欠けている)スケッチは完璧で、スケッチ間の余白に意味をこめる。(そういう「芸術的」な映画を思い描くことはできる)

    題名の「架空の犬」は理解できたが、「嘘をつく猫」はいまだになにだったか分からない。その題名のなぞもふくめて、観客も出演者もいつかこういうことだったのだ、と分かるかもしれない、それなりのつくりの映画だった。

  • 映画『旅と日々』

    映画『旅と日々』

    映画『旅と日々』
    (C)2025「旅と日々」製作委員会

    頭の体操 映画『旅と日々』

    おおまかにこの映画は二つのパートにわかれている。

    前半が河合優実が出る若い二人の海での物語。

    後半は脚本家役のシム・ウンギョンが旅に出て山奥のさびれたベッドアンドブレックファストにたどり着く物語。

    さて、ここで頭の体操。前半部分の最後は雨の海と河合優実のアップになっているが、最後の最後にもうひとつカットが隠されているとしたらそれは何でしょうか。
    正解(私の妄想)は、海岸で雨に濡れそぼつカラスのカット。

    では、後半の最後はなにか。
    現在はシム・ウンギョンが雪上を駅に向かって歩いていくシーンだが、正解(私の妄想)は足跡にポトリとボールペンが落ちるカット。

    尻切れトンボを糊塗するような長いカットは「エンド」にはならない。他にも長いカットがいくつもあった。

    一方、得難いハッとするようなシーンもいくつかある。
    山奥の宿に警官がやってきて宿主とかわすやりとり。おもしろい。
    宿主の堤真一もよかった。

    シム・ウンギョンが韓国から日本にやって来た当初は言葉から自由になっておどろきやおそれに直面するがやがて言葉に追いつかれて取り込まれる、と述懐するシーン。

    つれあいにさそわれて前知識なしに観たので、つげ義春原作ということも知らなかった。不条理の話が不条理に終わるのもつげの物語の面白さではあるが、映画なのだから映画らしくもっと面白くしてほしかった。

    映画の最後に「旅と日々」とタイトルが出て終わったときには、えっ、長い前置きのあとにこれから本編がはじまるのではないの?、とマジ思った。

    つげは偉大ではあるが、踏み台にしてさらに偉大な物語をめざす心意気があってもいいのではないか、と思った。

    (by みとまと in note)

  • 映画『爆弾』

    映画『爆弾』

    映画『爆弾』

    評判は悪くないようだが、はたして評判どおりだろうか。

    佐藤二朗はわるくない。よくもわるくも佐藤二朗は佐藤二朗、を押し通していた。

    ただ全体的に長すぎる(多分理由があるのだろう)。

    ストーリーを大まかにいうと、のらりくらり謎かけスタイルで犯行をほのめかす佐藤に対して入れ替わり立ち代わり3人の刑事が交代して事件の真相を追求していくというもの。

    映画の構成を考えるうえで、仮に、全体を6つに分けて、それぞれに佐藤というカードがあるとする。

    一枚目と2枚目の佐藤のカードの間に入るのが、所轄の刑事の染谷将太だ。佐藤を尋問するが、霊感による爆発の予言だという佐藤の主張をくずせずに、担当から外されてしまう。役柄としては前払い的な脇役だが染谷なりの存在感を発揮していて悪くない。

    2枚目と3枚目の間に入るのが渡部篤郎だ。渡部は本庁からやって来た幹部刑事の役で、やや年配で深みのある人物。佐藤との謎かけのやりとりも抑制を利かせてうまくこなしていて、見ている側もはらはらする。普通なら退屈になりかねない部分だが、渡部の演技は出色だと感じた。映画全体をとおして、MVPを献上したい。

    そして、3枚目と4枚目の間にはいる刑事が、渡部の部下で謎解きが得意の変わり者の山田裕貴だ。自信過剰の薄っぺらな人物になってしまっていて、本当はどうも、悪を内包する深みのある役らしいが、それが伝わらずに終盤にむかってしまう。映画『爆弾』はここに不発弾一個を抱えてしまった。

    さて、4枚目と5枚目にはなにが入るのだろう。それは、真犯人役の片岡千之助だ。本来は映画の構成上説得力のある動機がここで明かされなければならないが、ほとんどない。というか、監督の計算違い(あるいは計算通り?)なのか、犯人の存在感が吹けばとぶような薄さだ。

    そして、5枚目と6枚目の間に入るのが、犯人片岡千之助の母親役で、佐藤ともつながりがあり、所轄署に拘置されている佐藤を殺そうと爆弾を持参する夏川結衣だ。これも不発だった。

    東京全域爆弾注意報とでもいえるシチュエーションサスペンスだが、あえて佐藤と周囲の登場人物との心理劇に軸を移してしまったのだろうか。

    だとしたら、佐藤と夏川との間で起きた出来事を説明したら、佐藤のどす黒い闇がきっと見どころになった印象深い映画になっただろう、と思った。

    note みとまと より転載)

  • 映画「愚か者の身分」

    映画「愚か者の身分」

    愚か者の身分
    (C)2025映画「愚か者の身分」製作委員会

    映画「愚か者の身分」

    オモシロイ!一級のエンタテインメント。監督は永田琴。

    監督の力量が半端ないのが全編息をつかせず見せられるので明白。

    俳優もいい。特に誰というより、北村匠海、林裕太、綾野剛の3人のコンビネーションがいきいきとしている。

    脇役もいい。どれもいいが、木南晴夏の役を要所要所で強調しているのも映画にあたたかさを与えている。

    ストーリーがいい。逃亡劇ではじまるどんでん返しがあるが、そこにいたるまでの時間の組み換えが嫌味なくわかりやすくごく自然で小気味よい。

    若者への思いがテーマとしてあるようにおもえるが、テーマ自体の重みを感じさせない。主人公たちの生きる苦しみの感触は伝わってくる。

    テーマ、ストーリー、演技の絶妙なハーモニーでエンタテインメントとしてのマジックが成立した、とでもしか形容の仕方がない。

    やくざ、女、だまし、と三つそろえば、いままでなら、性の搾取がテーマの一つになりそうだが、それが全くないのも、稀有なおもしろい映画になった、という点もオモシロイ!

    映画館へ急げ!

    (note みとまと より転載)

  • 映画『あなたの番です 劇場版』

    映画『あなたの番です 劇場版』

    クリスティの「オリエント急行殺人事件」のような、密室殺人事件を思わせるような趣向の映画だが、眼目は殺人の方法よりは、犯人と動機。
    原案の秋元康の作品は、「NG」というテレビドラマが面白かったので、この映画も期待して観に行った。舞台は外洋に出れる大きな船の中。
    シリアスな推理ものではなくて、密室殺人をネタにした、ハチャメチャ劇に近いが、すごいところは、きちんと整えるべきところは整えていること。狂言回し役の田中圭もあと少しで過剰、というレベルで抑えられていた。
    多用な人物が登場するが、ちょうど将棋の駒のように役割を与えられていて、全体の枠にきちっと収められている。たとえば、犯人には特異な性癖があるが、それを説明する駒役がいるといった具合。
    この映画の予告編にはまったく食指が動かなかったが、本編には安易さがなかったのは意外だった。ご都合主義的な駒もあったがそれも必要。
    冒頭の険悪なマンションの管理組合の会合から、なぜ急にそのメンバーが船上の結婚式パーティーにいるのかも、映画にとってはなんでもアリの切り札だと教えてくれる。気楽に観ればいいのだ、という思いで席についたが、最後まで裏切られることなく観れた。

    ©hiroshi sano

    監督 佐久間紀佳
    公開 2021年12月


  • 映画『アジアの天使』は出たとこ勝負か?

    映画『アジアの天使』は出たとこ勝負か?


    映画『アジアの天使』

    『アジアの天使』はガタピシしていた出だしがだんだん落ち着いてきて、恋愛ドラマに収れんしていく映画。
    一応「アジアの天使」が登場するので、看板は偽っていはいない。しかしでこぼこ感はずっとつづくので、ふさわしい題名は何だ、とか、三題噺ではないだろうか、とか、没入しきれないで観てしまうきらいはある。
    主役の池松壮亮は感情を爆発させる場面は違和感があった。いづれも主題(たぶん他者を大切にする愛情)とは関係ない場面だったので主人公のエキセントリックさを強調するだけに終わった。
    オダギリジョーは、(おそらく)アドリブのシーンでハシャギ過ぎが鼻についた。
    一方韓国の俳優はいづれも見事で魅力があった。
    しかし、ガタピシした感じはやがてこの映画の豊な可能性として余韻を残していく。
    ストーリーは日本人の兄弟が、韓国人の家族とたまたま同じ列車に乗り合わせて、その墓参りについていくというもの。連れの子どもがオシッコをしたくなったり、韓国人のヒロインがお腹が痛くなったり、韓国人のおばさんの家で歓待されたりする。途中ヒロインが 所属する芸能プロダクション社長とのつらいエピソードが入ったりする。
    いちおう映画の社会性を担保する骨組みの要素(妻の死、悪徳芸能プロ社長、つらいソウルでの生活)は入っている。
    しかし、映画のメインの旅自体には、韓国の家族の側にも、日本人の側にも、理由も必然性もなかったことが明かされる。
    だから、出来事の断片をつなぎ合わせた、だけ、という痕跡をのこしつつ、じつはこれこそが映画の隠れたテーマだったりする作品だ。
    そういういみでは、オダギリジョーのハシャギ過ぎのアドリブは、映画全体の意味を暗示している。
    唐突なお笑い芸人のような天使ももう一つの隠れたテーマだ。
    誤解を恐れずに言えば、出たとこ勝負を力業でまとめあげた映画、と言えると思う。ここには洗練はないが、可能性はたしかにある、という意味で、観た後、腑に落ちた。

    (h.s)

    ©hiroshi sano

    監督 石井裕也
    公開 2021年7月

    評価
    4/5

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    https://youtu.be/ld0C39UiAO8

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  • 映画『地獄の花園』

    映画『地獄の花園』


    (C) 2021『地獄の花園』製作委員会

    映画『地獄の花園』

    OLの社会には、カタギと、その筋のOL、という2種類がいるらしい。
    主人公の永野芽郁が、ふつうのOLであることを楽しみに会社に通っているが、ある日の更衣室で、ぶっ飛ばされるOLが、ロッカーをへこませる、という惨事に遭遇する。
    というところから、映画は始まる。
    「その筋」というのは、かつて暴走族だったり、ヤンキーだったりエトセトラ、だったりということらしい。その彼女らが、社内はもちろん、会社の枠を超えて、抗争を繰り返して、だれが最強のトップなのかを決めようとしているらしい。
    映画の半分は、そうした女子プロレスリングの世界で、はでなアクションシーンがつぎつぎに続く。
    菜々緒は、ここぞとばかりみどころをつくるし、大島美幸が意外にはまっているのがおかしい。
    ただ役者をそろえているわりには、花園の花を感じることろが全くない。映画の出だしの3カットくらいで、フツウの会社の部分がチャチだし、あこがれの森崎ウィンはぼんやりしてステキさがゼロだし、全体の計算欠如が露呈する。
    ただ、このところ激高もの役がつづいているせいか、広瀬アリスだけが、息遣いの荒さがつたわってきて、だれが主役なのか迷うほどだった。

    (h.s)

    ©hiroshi sano

    監督 関和亮
    公開 2021年5月

     

    評価
    3.4/5

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  • 映画『街の上で』はちょっと注目!

    映画『街の上で』はちょっと注目!

    佐野 ヒロシ

    (C)「街の上で」フィルムパートナーズ

    映画『街の上で』

    この映画の評が何日も言葉にならなかった。それほど印象深く、おもしろさも一筋縄ではない映画だ。映画作りが劇中に行われていて、そんな多重構造からの連想は、ホラーコメディー「カメラを止めるな」につながるが、観る方が受けたインパクトは「カメ止め」をしのぐ大事件だ。

    約5つの恋話が盛り込まれていると思う。前半散りばめられるそれらの恋の伏線が、後半うまく結実して、多少の映画好きなら観て損はない。

    中盤、劇中の映画監督が映画論をちらと語り、場面がかわって、主人公が、ながながしい恋話のやりとりをする場面があるが、それらがワンパッケージだとすると、ここを中心に映画の撮影を進めたのかもしれない、といった、映画を分解する別の楽しみもある。

    なによりスゴイのは、登場するすべての脇役のバランスがよくて、あたりはずれが無いということだ。

    出だしは、暗い気分の表現だから、うっとうしいが、全体を観れば、面白み満載の映画だと思った。

    ただ蛇足ながら、主役の脱力系はこの映画の柱ではあるが、最後まで脱力は、この映画の印象度を時間とともに浸食している気がした。(どこかで、強い見せ場があってもよかったかも)

    (h.s)

    監督 今泉力哉
    公開 2021年4月

     

    評価
    4.3/5

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  • 映画『BLUE/ブルー』

    映画『BLUE/ブルー』

    佐野 ヒロシ

    (C) 2021『BLUE/ブルー』製作委員会

    映画『BLUE/ブルー』

    はじめから、特筆すべき質感をもってはじまっていく映画だった。カメラワーク、編集、人物登場、演出、がうまく絡み合って緊張を保っている。グローブからはじまり、シャドウボクシングで終わる、はじめから終わりまで、ボクシング愛の映画だ。

    だからといって、私のようなボクシングには無縁な人間も、最後まで楽しめた。

    ここには愛憎の激しさも、はげしい闘いのカタルシスも、希薄だ。というか、負けてばかりの松山ケンイチを評して、東出昌大が、あの人は強かった、というシーンが唯一、感動のシーンだし、はじめから、及び腰気味の柄本時生がぐんぐん強くなるのが、唯一カタルシスと言えばカタルシス。で、味の濃さを例えれば、お茶漬け程度。

    それでも、質感がおもしろい映画になったのは、結局のところ、ボクシングジムのこまかい現実を拾った、「ボクシングあるある」、つまりこんなこと、あんなことがある、という映画だったからだと思う。

    出演は、松山ケンイチが、試合に出れば負けてばかりのボクサー。東出昌大は、チャンピオンをねらうボクサーだが、脳にダメージを抱えている。その二人に関わり、心配してただ見守るだけしかできない木村文乃。この三人が恋愛感情を交錯させるが、そちらに振れることなく、あくまでボクシング中心で描かれていく。そこに、脇役で柄本時生が、かっこよくなりたい、という理由だけで、ボクシングジムに入ってくる。

    3人の三角関係は宙ぶらりんのまま続くが、その柄本だけが、ボクシングの才能を開花させていく、という内容になっている。

    だから、筋立てがあるとしたら、柄本の役柄が筋立てになっている。ほかの登場人物は筋立てとしては弱いし、終わり方も不親切だ。登場人物はすべてボクシングを愛しているが、それよりも監督のボクシング愛は確実に伝わるようなつくりにはなっていた。

    (演技をしていたのはセリフのある人間だけで、その他の人物は演技をしない演技だったのが、印象深かった)

    (h.s)

    監督 吉田恵輔
    公開 2021年4月

     

    評価
    4/5

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