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映画『カムバック・トゥ・ハリウッド』

せっかく名優を3人揃えたのに、前半のデニーロのダメプロデューサーぶりを延々と見せる部分が興覚めだった。
デ・ニーロは、作品につよい愛着を見せるプロデューサーだが、他方、保険金殺人を仕掛けようとする破綻ぶりがうまく処理されていない。引いてしまう時間帯がかなりあった。
実際のロケの部分は、ロケ隊のメンバー同士のやり取りなど、映画作りをめぐる群像劇的な兆しがあって、そこを盛り上げたらかなり面白かった。
要は3人の怪優をつかってハチャメチャ劇をつくりたかったらしいが、脚本や編集のまずさもかなりあったと思う、というのは、、
映画冒頭は、カトリック修道僧たちが映画館前で抗議している場面から始まる。
デニーロが制作したのは「キラー修道女」とでも題する映画で、そんな抗議もあって、初日から失敗と見込まれたのが、その後の悲喜劇の展開につながるきっかけとなっている。
そんな大事なシーンをデニーロの話芸だけでついやしたので、逆にプロデューサーとしての存在のあいまいさがのちのちまで続いた。
「キラー修道女」は冒頭で見せておくべきだった。そこで、テレビや新聞などでの酷評ぶりをだせば、直後のモーガンフリーマンの登場の意味づけも濃くなって、面白さも倍加したと思う。
なんとか喜劇にしようという仕掛けはそこここにあって、観ている側は、監督の意図にのってあげないと、かわいそうだと思ってしまうほどだ。
そんな仕掛けが10あったとすると、そのうち3くらいは、笑えた。
3人とも、その演技に破綻がまったくないので、残念さが強まる。
トミー・リー・ジョーンズは、ほどほど活きていたと思う。モーガンフリーマンは、あいかわらずいい演技をしていて、もう少し見たかった。
主役のデ・ニーロは出すぎなくらいだったが、その割には、十分に活かされていないシーンがあった。喜劇だから、デ・ニーロが笑われるシーンがある。馬にけられたり、牛に追突されるシーンが3回あったが、せっかくの貴重な機会が台無しになっている。
馬をあやつる魔法のような単語をとなえて、トミー・リー・ジョーンズに危害を加えようとするのだが、その災難に自分があってしまう、とういのが笑いをとるシーンである。
そこを十分に活かすためには、事前にデ・ニーロに単語をつぶやかせて、その結果を妄想して悦にひたる表情を挿入すべきだった。多分一番簡単な計算上のミスだ。
ところが、女監督の現場での描き方や、大道具役の演技など、クスッと笑えるシーンは巧みさも感じられる。老人ホームでのシーンもあからさまにゾンビ映画だったが、それよよい。さらに映画好きだったら、しっているシーンの吹き替えがそこここにあったのだと思う。
見終わったあとの評価は、5点満点中2.5点だが、こうして分解してみると、この映画の製作プロセスがかなりハチャメチャで悲喜劇だっただろうと推測されて、おおいに堪能した。
ちなみに、こんなに大俳優が出ているのに、アメリカでの公演も「キラー修道女」と比べて遜色がなかったようだ。

(h.s)

©hiroshi sano

監督 ジョージ・ギャロ
公開 2021年6月

 

評価
2.5/5

映画『 青くて痛くて脆い』

完璧な青春なんて、ありそうもない。だれだって、いびつな青春をかかえて、育ってきた。 いびつな同士が、重なり合って、隙間をつくりながら、相手と世界を理解していく、そんな映画だ。

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